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夫婦慕情、その11、世間の目なんてどうでもいい





夫婦慕情、その11、世間の目なんてどうでもいい

私達二人はトボトボと帰路についたのですが、

いつもの亜希子さんと違って、なにか考えているようでした。

(龍ちゃん…私…帰ったら、実家とか、あの人の家に電話するから…)

{うん…そうだね…じゃあ…俺、ここで帰るね}

私達は店の前で別れました。

寮に帰ると、先輩達が部屋で酒盛りの最中でした。

<おっ…色男!>

酔った先輩の一人が、私をからかうように言いました。

{よして下さいよ…そんなんじゃあないんですから}

私はぶっきらぼうに言いました。

[旦那の具合はどうなんだ?]めずらしく仲井さんが、

まともな質問をしてきました。

{見舞いに行ってきたんですが…あまり良くないです…}…と、

今日の様子を話しました。

[そうかあ…じゃあ、あの店は閉めることになるのか?]

私は、仲井さんが多少なりとも心配をしてくれていると思っていました。

{まだ、そんなことまで決まってないと思いますよ…}

と言うと…

[でもよぉ…あの白蛇、まだ三十位だろうよ…

独り身じゃあ身体がもたねぇよ、身体が…]…

私は、店の切り盛りが亜希子さんひとりでは大変だと、

心配してくれている…そう思い込んでいました。

[まあ、あの身体と可愛さだ…回りがほっとかねえか]

と言ったのです。

やっぱり!…仲井さんの話しはお店の心配ではなく、

亜希子さんを酒の肴にしていただけだったのです。

[龍…お前、手伝いに行ってるけど、一回くらいやらせてもらったのか?…]

ニヤニヤ笑いながら仲井さんは私を肴にし始めました。

[なに言ってるんですか…こんな時に!}

<仲井さん、龍は絶対もうやってますって!…

朝方帰って来た時もあるんですから>

同部屋の先輩が、私の朝帰りを知っていました。

{そ・それは、里治さんの病状を聞いてて、

遅くなっただけですよ}

私は慌てました。

[わかってるから、怒るな…

冗談だよ!あんないい女が俺達みてぇな

半端者を相手にするか!…いいからお前も飲め…]

仲井さんのこの一言には、救われました。

仕事終りに一杯飲むのは、当時の私達には楽しみな時間でしたが、

先輩達のエロ話しには正直、馴染めませんでした。

まして、話の肴が亜希子さんに及ぶ時は、許せない思いだったのです。

そして、私が生前の里治さんに会ったこの日から

五日後、里治さんは亡くなられました。

残念ながら、里治さんのご両親が上京された時には、

里治さんは昏睡状態に陥っていたと亜希子さんから聞きました。

慌ただしく葬儀も終り、亜希子さんは、本当にひとり切りになってしまったのです。

それでも亜希子さんは気丈に店を続けました。

店が終り、二階に上がると、疲れ果てた亜希子さんはラジオから流れる

音楽を聴きながらお酒を飲んでいました。

なんとも寂しそうな姿でした…。

(あっ…龍ちゃん、お疲れさま…飲む?…)

亜希子さんはそう言って、そっとコップを出してくれました。

その姿があまりにも、か弱く思えた私は、亜希子さんの差し

出すコップの上から、手を重ねたのです。

(龍ちゃん…私…今…優しくされたら…崩れてしまう…)

そう言う目から涙が溢れました。

ギリギリの思いで店を続けているのは、私にもわかっていました。

{亜希子さん!…俺…ずっと、そばにいるから…}

私は、この時本当にそう思ったのです。

(うん…ありがとう…。でもね龍ちゃん…

龍ちゃんはまだ若いから…世間ではもう噂になってるわ…)

わかっていました…面白可笑しく、好奇の目で私達を噂していることは…

{そんなの関係ないよ…俺は亜希子さんが好きなだけだ…}

(うん…本当は私だってうれしいのよ…でも…

あの人が亡くなって、まだ日にちが…私がいけないのよ…)

{亜希子さん…その言葉はもう言わない約束だよ}

(うん…ごめんね…でも…龍ちゃんを変な目で見られるのはつらいの)

私は世間の目なんてどうでもいい…そう思っていました。




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私の妻は、その22、私をSMホテルに連れてって

私と2人でいく約束のハプニングバー…

私は仕事の都合で待ち合わせの時間に行かれず、

妻は先に一人でいくことになりました。

そして、私がいないところで、男性とプレーをしてきました。

家に帰ってきてみると…

妻の体には無数のキスマークがありました。

所々にはキスマークよりさらに紫色と赤が混じったような跡がありました。

私は思わず「なにこれ?」と言ってました…

妻は「今、お風呂に入って鏡で見たら、自分でも驚いた…」

そのキスマークはT君につけられたものでした。
さらに妻はT君に肩も噛まれた…と言っていました。

私は「大丈夫なの?これ?痛くなかったの?だいたい

、なにこのキスマーク?俺への挑発?」

妻はさっき車の中では言わなかった話を始めました。

妻がT君と話をしている時に、T君は「店では隠しているんだけど…

縛るとかはあまり出来ないけど、かなり強いSなんです」

と言っていたらしいです。

さらにT君は「こういう店で自分の本性を女性に出すと、

多分出入り禁止になるので抑えている。○○さん(妻)なら

自分のそういう部分を理解してくれそうな気がする」

と言ってきたそうです。

最初、その話を聞いた時には、妻はT君のイメージから信じられなくて、

へぇ~と話を合わせていて、正直「若造が生意気なことを…」

と思っていたそうです。

しかし、実際にプレーしてみると、

この人はかなり強いS性を持っていると思ったらしいです。

プレーが始まるとT君は人が変わったようになり、

妻は髪の毛を掴まれてフェラをさせられたり、手を押さえられて、

肩を噛まれたり、挿入している時には、

ずっと口を手で押さえられていたそうです。

私はその話を聞いて思ったことがあり、妻に聞きました。

「もしかして、スイッチ入った?」

スイッチ入ったとは、妻がMモードになることです。

妻は強いSの男性は目付きや女性の扱い方ですぐに分かる…

と日頃から言っています。

そして妻はそういう男性とプレーをすると、

Mスイッチを入れられてしまうのです。


「スイッチ入れられた…と言ったら怒る?」

妻は上目遣いでエロい顔で私に言ってきました…

妻はすでに私が怒らないと確信した上で聞いてきたと思います。



「ちんことスイッチも入れられたのか?欲張りだな…(笑)」

妻の問いに冗談で返して、私は怒らないことをアピールしました。

私はスイッチを入れられたの…って妻の答えを期待していました。

妻「スイッチ入ったと思う…

プレー中にいやらしい約束をいっぱいさせられた…」

私「なんだよ、いやらしい約束って…?」

妻「プレーの中での話だから本気にしないでよ…?」

私が「しねぇよ…」と怒るように言うと…

「ほらほら…もう嫉妬してる…(笑)」と私をからかいました。



「いいから、なにを約束したんだよ…」



「私をSMホテルに連れていくんだって…(笑)連れていってください…って言わされたよ」



「それと…?」



「俺のペットになれって言われたよ…」



「媚びるように、ペットにしてください…って言ったんでしょ?」



「だって言わないと乳首を思いっきり引っ張られから…ごめんね…

私を檻に閉じ込めて飼いたいとも言ってたよ」

私はその場にはいなかったのですが、

その時の妻の顔の表情や言葉遣いが想像できました…

かなりエロくさせられていたんだと思いました。

私はその話を聞いて、妻が私の知らないとこで

、T君にメス犬のように扱われてしまうのを想像しました。

その怒りを欲情に変えて、妻に首輪をさせて、

四つん這いにさせて、今日は何回逝かされたんだ?

T君にまた虐められたいんだろ?ペットになりたいんだろ?

と、責め立てて、妻の中にたっぶりと射精をしました。

妻とT君はこれだけでは終わりませんでした…

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私の妻は、その21、無数のキスマークが

ある日のこと、いつものように、私と妻は仕事帰りに待ち合わせをして、

ハプニングバーに行くことにしていました。

その日、妻はある事情で仕事を休んで、

午前中に用事を済ませて、

美容室に行ってから待ち合わせをすると言っていました。

妻との待ち合わせは、たしか19時にしていました。

ところが、私は仕事で緊急の会議が行われるようになってしまいました。

すぐに終わるような会議ではなかったので、遅くなりそうなので、

中止にするか、それとも少し遅れるけど、どこかで待っている?と、

妻にメールをしました。

妻からの返信はありませんでした。

電話もしましたが、妻は電話に出ません…

妻は美容室でメールを見ていなく、

電話にも出ることができませんでした。

結局、会議が始まるまで妻に連絡が取れずに、

会議が始まってしまいました…

待ち合わせ時間が過ぎても会議は長引き終わりません。

待ち合わせ時間を1時間くらい過ぎた頃、

会議がやっと休憩になったので、私は急いで妻に電話をしました。

「ごめん。メール見たでしょ?今どこ?」

「まだ新宿で待ってるんだけど…まだ?もう会社出たの?」

と不機嫌そうな妻の声。

「ごめん。トラブルでまだ会議終わらないんだよ…どうする?」

私はてっきり妻は、だったら帰る…と言うと思っていました。

しかし妻は…

「せっかく美容室にもいったのに…」

とかなり不満げな様子で不機嫌に…

私はその不機嫌さに思わず、

「じゃあ~先に店に行ってる?会議終わり次第に後からいくから…」

と言ってしまいました。

妻はよく冗談で、仕事帰りに単独でハプニングバーに一人で寄ってくるよ…

と言っていました。

一度、こちらも冗談で

「俺がいないとこで、やりまくるつもりなんだろ?」

と言ったら、妻はこう言いました。

「うん(笑)だって、あなたがいない時に、ご主人に内緒で一人で来なよ

…ってよく他の男性に言われるよ」

「はぁ?誰がそんなことを言うんだよ?」

「教えないよぉ~だって教えたらその人に文句言うでしょ…?

社交辞令で言ってくれてるのかもなのに、いちいちそんなんで、

喧嘩なんかされたらたまらないよ」

なんて会話をしていました。確かに喧嘩まではしないでしょうが、

文句は言いたくなりますね。

話を戻します。

妻の不機嫌さに思わず、先に一人で言っていれば?

と言ってしまった私に、妻は…「じゃあ~先に行ってるから、

後から来てね」と言いました。

私は半分マジに「俺がいないとこで遊んだら駄目だからね」

と念を押して電話を切りました…

結局、会議はさらに長引き22時くらいまで掛かってしまいました。

私は会社の車を借りて帰ることにしました。

急いで新宿に車で迎い、妻に途中で電話をしました。

しかし妻は電話に出ません…

(今はハプニングバーの店内で携帯を使うこと

は禁止されている店がほとんどですが、当時はあまり厳しくなかった…)

そうこうしているうちに新宿についてしまいました

。時間は23時を過ぎていました。

私はこの時間ならば、もう店に顔を出さないで、

妻を拾って帰ろうと思いました。有料駐車場に車を停めて、

歩くのも面倒だし、

一度顔を出したらすぐに帰れなくなると思いましたので…

しかし、いくら妻に連絡しても、

妻からは電話もメールの返信もありませんでした。

私は会員証に書いてある店の電話に電話をしました…

マスターが電話に出ました。

「○○ですけど、うちの妻がいると思うのですが…

呼んでもらえますか?」

暫く保留にされて、待たされましたが、マスターが電話に出て、

「奥さん、今、電話に出れないから、電話出来るようになったら、

すぐに折り返し携帯に電話をする…って言ってます」

と言われて、電話を切りました。


はぁ?電話に出れない?なにをしているのか?

それって…?

暫くすると妻から電話があり、

私が「今、下の道路で車を停めて待ってるんだけど…?」

と、思いきり不機嫌な声でいいました。

妻は「ごめん。今すぐいく…」

と言いましたが、それからさらに20分くらい待たされたました。

マスターの「電話に出れない…」

の発言が気になって、イライラがピークになりました。

電話に出れないって?なにをしていた…?って気分でした。

妻が雑居ビルから出て、こちらへ小走りでやってきました。車に乗ると…



「ごめんなさい…」


「なにがごめんなない?

待たせたこと?それとも他に謝らないといけないことがあるの?」

と嫌味たっぷりと聞きました。


「だから、ごめんって…すぐに店を出られなかったの…」


「なんで??なんですぐに電話に出れなかったの?

いったいなにをしていたの?」

妻「……仕方なかったの。でも、

最初からそんなに怒っていたら話しなんて出来ないよ…」

普段は妻になにを言われても怒らない私が、

かなり不機嫌なので、妻もやばい…と思ったようでした。



「わかった。冷静に聞くから、なにがあったか…ちゃんと説明して」

妻が言うには…

店に着くと、男が3人と女が1人いて

、最初は5人で一緒に話をしていたらしいです。

そのうちに、私も何度か会って話をしたことがあるT君と、

初めてツーショットで会話になったそうです。

T君は最近頻繁に店にくるようになった、妻より2歳下の礼儀正しく、

清潔な感じがする男性で、女性にもモテるという印象がありました。

そのT君と隣に座って話をしていたら、ご主人は?と聞かれて、

今日は後からくると言ったら、T君から「ご主人来たら、

私とハプらして貰えるように頼みたい…」と言われた。

そんな話をしていたら、T君と顔見知りの単独の女性が、2

人で話しているところに割り込んできて、T君にプレールームにいこうよ…

と誘っていて、妻はなにこの女…と、ムッとしたそうです。

しかし、T君は、今は話をしてるから…と断ったの事でした。

妻も女性…嬉しかったんだと思いました。

その後、私が来るのを待っていたが、私が来ない…

そして、T君は終電で帰ると言っていて、タイムリミットまで1時間…

T君は「今度、御主人がいる時に…」と言っていたらしいです。

妻はT君はさっきの女性とハプるチャンスがあったのに

、断ってまで待って貰ったのに、このまま帰らせるのは申し訳ない…

という気分になり、妻からプレールームに誘ったらしのです

。T君は「旦那さんは大丈夫?もう来るのでは?」

と気にしていたらしいのですが、

妻がちゃんと説明するから大丈夫と言いながら

プレールームに移動したらしいのです。

タイミングが悪く、そのプレー中に私が仕事帰りに

電話をしていたみたいです。そしてプレーが終わり、

2人でまだ裸でイチャイチャしていたら、私から電話だよ…

とマスターから呼び出されたとの事でした。


私は、他の男性とプレーをしたより、終わった後のイチャイチャしてた

…に強く嫉妬しました。

その時は私は既に店の下で妻を待っていたというのもありましたし


確かに私はこの時には、妻が男性と2人でプレールームで

普通にプレーをするのは、

見ていてもあまり刺激的ではなくなってきていて、

見なかったりすることもありました。

ただ、それと今回の件は妻にとっては

たいした違いがないかもしれませんが、

私にとっては大きく違います。

私は冷静に話を聞くからと言いましたが、

帰りの車でその話を聞くと、感情的になり、

私の悔しい思いや、腹立たしい気持ちを伝えました。

いつもなら、私が怒ると、

いつの間にか逆ギレされて立場が逆転するのですが…

(笑)今回は妻は「私がもう少し考えて行動すればよかった…

ごめんなさい」と素直に謝るので

、いつまでもやってしまった事を怒っていても仕方なく

、妻に私の気持ちも理解して貰えたようなので、

妻を許すことにしました。

ただ、妻を許す気持ちになると、次はT君に腹が立ってきました…

妻は「T君はずっとあなたを気にしていたのを、

私が誘ったんだから、

T君には責任はない。T君には怒らないで…」と言っていました。

後で聞きましたが、私から電話があり、

妻が急に血相を変えて帰っていったので、妻が帰った後の店内では、

私達夫婦がヤバイことになるのでは?と言う話しになり

、T君も結局、気になって終電を逃して帰れなくなったそうです。

私達は家に帰り、私の嫉妬の怒りの気持ちは、いつの間にか、

妻が私のいないところで、他の男性とセックスをしてきた

…と言うエロな気持ちを変わりました。

他の男性に抱かれてきた妻を、私はどんなことをしてきたのか、

妻に言わせながらエッチをしようと思い、

妻を抱き寄せて、服を脱がそうとすると、妻がなにか様子が変でした。

妻は「今日するの?」と私に聞きました。

私は「したくないの?」と聞いたところ…

妻は「実は…」

と言いながら、自分で服のボタンを外して前を開くと…

妻の体には無数のキスマークがありました。

所々にはキスマークよりさらに紫色と赤が混じったような跡がありました。

私は思わず「なにこれ?」と言ってました…

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夫婦慕情、その10、おの人が死んじゃった。

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夫婦慕情、その10、おの人が死んじゃった。

里治さんの病状は、日増しに悪くなっていました。

毎日、亜希子さんから状況は聞いていましたが、

一喜一憂の時期から、徐々に意識の混濁がみえ始めていたのです。

シーンとした病室の中で、突然「伏せろ!地震だ!伏せろ!」

と叫び出したりするの…と、

亜希子さんは涙ながらに話してくれたことがあります。

そんな時、亜希子さんは里治さんの頭を抱きかかえ

(大丈夫よ!…ここまで津波はこないわよ!)と

母親のように庇うのだそうです。

そんな状況を聞くと、私は胸が締め付けられる思いがしました。

日曜日をいつものように早じまいにして、

私は、亜希子さんと二人、病院に向かいました。

病室に向かう途中、亜希子さんは看護婦に呼び止められ

、話し込んでいました。

私は、病室の前で亜希子さんが来るのを待っていると、

走りに近づいた亜希子さんは…

(身内の人に知らせておいた方がいいって…)

そう言って病室に入って行きました。

私も病室に入ると、里治さんは、目は、開けているものの、

力無く、ボーっとしていました。

(あなた!わ・た・し!…亜希子よ!…わかる?)

亜希子さんは里治さんの顔の前に、

自分の顔を近付けて大きい声で話しかけました。

すると里治さんは、無言でコクり、コクりとうなずきました。

(あなた!龍ちゃんが来てくれたわよ!)

私も亜希子さんと同じように、里治さんに顔を近付け…

{里治さん!…お!れ!…キ!ノ!シ!タ!…わかる?}

と声をかけてみました。

里治さんは、私の顔をジィーと見つめていましたが、

その目は黄色く、濁っていました。

「龍ちゃんか…」

ぽつりと…一言…言ってくれたのです。

{そうだよ!里治さん!龍一だよ!}

ただ無言でうなづく里治さんでしたが…

「もう…いいよなあ…」と言ったのです。

私は、里治さんの言葉を、心の中で繰り返しました…

「もう…いいよなあ…?」

一気に涙が溢れてきました…苦しいのです…

里治さんは苦しいんだ!…そう思ったのです。

黄疸がすすみ、腹はパンパンに膨れ上がった里治さんは、

苦しくて「もういいよなあ…」と言っている…

しかし…私には応えが見つかりませんでした…。

{頑張って!}とも、{もういいよ}とも言えるはずもありません…。

{俺…もう一回、里治さんと釣りに行きたいなあ}

と言うのが精一杯でした…

すると、里治さんは突然、亜希子さんに向かって…

「亜希子…田舎に帰ろう…」と言い出したのです。

(え?…田舎?…)

「お袋がな…帰ってこいって…言ってたんだ…」

亜希子さんは、里治さんの言葉にうなずき…

(お母さんがそう言ったの?…じゃあ帰らなきゃあね…

お母さんに会いたいの?)

そう言った亜希子さんの目から涙が溢れました…。

「お袋…早く…帰ってやらなきゃあ…亜希子…切符…買ったか?…」

(切符?……ああ…買ったわよ…大丈夫よ…心配しないで…

お母さんに会いに帰ろうね…)

亜希子さんは涙をポロポロと流しながら、

里治さんの顔を拭いてあげました。

里治さんは、亜希子さんの言葉に満足したのか、

それっきり口を開かなかったのです。

私が生前の里治さんを見た最後の日になりました…合掌。

(明日…またお腹の水を抜くんだって…)

ベッドの横にある椅子に座った亜希子さんは、

里治さんのお腹を撫でながら言いました。

{抜いたら少しは楽になるんだよね?}

(うん…){お母さんの夢…見てたんだね}…(…お母さんっ子だから…)

私の想像を超える病状でした。

私達二人はトボトボと帰路についたのですが、

いつもの亜希子さんと違って、なにか考えているようでした。

(龍ちゃん…私…帰ったら、実家とか、あの人の家に電話するから…)

{うん…そうだね…じゃあ…俺、ここで帰るね}

私達は店の前で別れました。




夫婦慕情、その9、 好きだって言われたの始めてよ





夫婦慕情、その9、 好きだって言われたの始めてよ、

会社の仕事を終え、寮の風呂に入る頃には、

里治さんを裏切ってしまった重圧に、

押し潰されそうになっていました。

店に入ると、すでに客が入っており、

亜希子さんは忙しく働いていました。

いつものように、亜希子さんは軽く微笑み、

両目を閉じて挨拶を交わしてくれました。

私は二階に駆け上がり、白衣に着替えたのですが…

今朝まで、この部屋で亜希子さんを抱いていた…

信じられない思いでした。

下に降りて、仕事が始まると、いつものように手伝ったのですが、

気分はまったく違いました。

亜希子さんのエプロンの下に隠された柔らかい身体を、

俺は知っている!…そんな思いだったのでしょう。

{里治さん…今朝はどうでした?}

(うん…水を抜いて、それを濃縮して、またお腹に戻すんだって…)

{濃縮して…戻すの?}

(そうみたい…お腹に溜まる水って、栄養なんだって…)

仕事の合間、合間に交わす話しで、要領を得ませんでした。

{亜希子さん…これからは、もうちょっと早めに病院に行けば?…

あとは俺がやるから}

(ありがとう…)

病院の先生から、里治さんが末期と聞かされ、

私は少しでも亜希子さんをそばに

居させてあげたかったのです。

ちょっと客が途絶えた時、

亜希子さんに病院へ行くことをすすめました。

(じゃあ、龍ちゃんに甘えて、行ってくるね…)

{うん、いってらっしゃい…}

亜希子さんはエプロンを脱ぎながら二階に上がろうとして…

(あっ…そうだ…龍ちゃん、これ…)

そう言って、エプロンのポケットから取り出したのは、

私が亜希子さんに買った"ミッチーバンド"でした。

{あ…それ…亜希子さんに買って…忘れてた…どこにあったの?}

(二階…テーブルの下…)

{あ…そうか…}

暗い部屋の中で、置いたことさえ忘れていました。

(ウフッ…ありがとう…)

亜希子さんは、照れ臭そうに二階に上がって行きました。

そして、着替えを済まして降りてきた時には、亜希子さんの黒髪には、

それが留められていました。

私は咄嗟に亜希子さんに近づき…

{亜希子さん…それ、病院にして行くの?…

里治さんに…俺からもらったって言っちゃあ…}

(似合ってる?…言っちゃあいけない?…)

私は…私が亜希子さんを好きな事を里治さんは

気付いているのではないか?と、

ずっと心配していました。

(大丈夫よ…病院に着いたら外すから…)

そう言って、亜希子さんは病院へ向かいました。

亜希子さんが帰って来たのは10時少し前でした。

店の方も、あらかた片付けも終わっていました。

(ただいまー。ごめんねぇ…)

やはり疲れた声でした。

(お帰りなさい…どうでした?)

二人で二階へ上がりながら、話しました。

(うん…お腹がペッタンコになっててね…"楽"そうだったわ…

久しぶりに機嫌が良かったのよ…)

部屋に入って、テーブルをはさんで座りました.

{良かったねぇ}

(ウフッ…龍ちゃんの好きな娘って女子高生なんだって?…)

{えッ?!なに?女子高生?…}

(うふふ…だって、あの人が言ってたわよ

、龍ちゃんの好きな娘って女子高生らしぞって)

そうだった!…里治さんの質問攻めから、亜希子さんを好きだと

気づかれないために、里治さんには女子高生だと言ったんだ…。

{あッ…そ・・それは…}

(ふふふ…聞いたわ。あの人が龍ちゃんに、カマかけたんでしょ?)

{だって…里治さんが、俺の好きな娘って、年上だろ?とか、

好きだって告白できない相手じゃないのか?とか言うから…}

(あはッ…)

{言えるわけないじゃない……}

(うん…あの人も言ってたの…カマかけたけど…

龍ちゃん、口を割らなかったって…うふふ…)

{口を割るって…それって、俺が亜希子さんを好きだって…

里治さん…気づいてたの?}

(どうだろう?…何となく、そう思ってたのかも知れないわ…

まえ…ね…あの人が…龍ちゃんが好きな娘って、

お前のことじゃないのか?って言ったことがあったの…)

(龍ちゃんが、ほとんど毎日、お店に来るようになった頃かなあ…)

その頃の私は、亜希子さんに淡い憧れをもって店に通っていた時期です。

{里治さん…今も疑ってるのかなあ…}

(今は…そんなことないわよ…気にしないでね…)

{でも…俺…里治さんを裏切ったんだよ…}

この一言が、亜希子さんを傷つけたのです…

(そんなことない…昨日は、私が悪かったの……でも、もうやめよう…)

私が一番、怖かった言葉を、亜希子さんは口にしたのです。

{嫌だよ!…俺…嫌だ!…}

私は、後ろから亜希子さんを抱きしめました。

(ちょっと待って…龍ちゃん…ちょっと待って…)

亜希子さんは、抱きしめる私の腕から逃れるように、身体をひねりました。

(龍ちゃん!…話しを聞いて!…)

思いがけない亜希子さんの強い口調に、私はからめた腕を離しました。

ぼうぜんと立ち尽くす私に、亜希子さんは、疲れた声で言いました。

(龍ちゃん…座って…)

亜希子さんは、座って、しばらく、黙っていました…。そして…

(昨日のことは…私が悪かったの…だから…

龍ちゃんは、あの人を裏切ったなんて…思わないで…。

裏切ったのは…私…私なんだから…)

亜希子さんは、そう言うと、シクシクと泣き出したのです。

亜希子さんは…昨夜のことを、すべて自分の責任にしようとしている…

私はそう感じました…。

私が{里治さんを裏切った}と言った言葉が、

亜希子さんを追い詰めたのだと感じたのです。

{ごめん…亜希子さん…苦しいのは…亜希子さんが一番苦しんでるのに…ごめん}

(うぅん…私が悪いの…あの人が、こんな時に…うぅぅぅ…)

亜希子さんは顔を覆って泣きました…。そして…

(でも…うれしかったなあ……

私ね…男の人に、好きだって言われたの始めてだった……

あの人と一緒になった時も、両親に言われたからなの…

お兄ちゃんみたいな存在だったから…)

私は里治さんの言葉を思い出していました…。

亜希子さんと結婚する前、里治さんに好きな人がいたことです。

(龍ちゃんが…ずっと前から、私を好きだったって言ってくれて…

うれしかったの)

昨夜のことがよみがえりました…。

里治さんが永くないと医者から告げられ、

亜希子さんは私の背中で泣いた…。

受け止めたはずの私が、里治さんを裏切った!と、うなだれたら…

自分の馬鹿さ加減を悔やみました。

私はテーブルに泣き臥せる亜希子さんを後ろから抱きしめました.

{ごめん…亜希子さん、ごめん…俺…もう、裏切ったなんて思わないよ…

俺は…亜希子さんが好きなだけ…それで…いいよね?…}

私の目からも涙が溢れていました。

亜希子さんは、私に身体を預けたまま…(うん…うん)と、うなづくだけでした。

私は、亜希子さんの唇を吸い、白い乳房に顔をうずめ、

泣きながら亜希子さんを抱いたのです。






夫婦慕情、その8、初めての口づけ





夫婦慕情、その8、初めての口づけ

亜希子さんは、私の背中にしがみつき、顔を押し付けて泣きました。

(龍ちゃん!あの人死んじゃうよォー!死んじゃうよォー!…)

背中で泣きじゃくる亜希子さんは、

ありったけの力で私にしがみつき、泣きました。

私は、衝動的に亜希子さんを抱きしめ、

亜希子さんの唇に自分の唇を重ねたのです。

私には初めての口づけでした…。

真綿の中を荒い息遣いと、亜希子さんに抱きしめられ、

体中に電流が走ったのを記憶しています。

女性の身体があんなにも柔らかく、

漏れる喘ぎ声は私を勇気づけたのです。

私の下で身体をくねらせ、しがみつく亜希子さんを、

愛おしくてたまりませんでした。

嵐のような時間が過ぎ、私は我に返ると、

痛烈な後悔が襲ってきたのです。

{ごめん…亜希子さん…ごめん…}

とっさに口をついて出てきたのは、謝りの言葉でした。

(うぅん…龍ちゃんが悪いんじゃないわ…謝らないで…)

亜希子さんは、私を下からしっかり抱きしめてくれました。

{俺……ずっと亜希子さんが好きだったから…}

初めて口にしたのでした。

(うん……)

薄い暗闇の中で、お互いを抱きしめながら、

沈黙と会話が繰り返えされました。

(あの人…お腹に水が溜まり始めたの……末期だって…)

{えッ?…水?}

(…うん…苦しんでた…ぅぅ…)

亜希子さんの目から涙があふれ出ているのがわかりました。

裏切った!…私は里治さんを!…裏切った!!

いたたまれない思いが込み上げてきました…。

私の胸も張り裂けそうになり、涙がこぼれ落ちていました。

(肝臓癌もあるかも知れないって…

今の医学では手の施しようがないと言われたの…)

亜希子さんは嗚咽を交えながら話してくれました。

その一言一言が、私の胸に突き刺さり、

逃れるように亜希子さんの唇を求めました。

亜希子さんの舌も私の舌に絡みつき、

再び柔らかい身体を求めあったのです。

夜が白々と空け始めるまで、

私は亜希子さんを離しませんでした。

恋い焦がれていた亜希子さんと、ひとつになれた高揚と、

里治さんを裏切った後悔とで、私の頭は千々に乱れていました。

(龍ちゃん…もう帰らないと…会社の人に見つかっちゃうわ…)

何度も私を受け入れてくれた亜希子さんは、私を気付かって言いました。

{俺…今日は休むよ…}

(だめよ…それはだめ…私も少し寝るから…帰らなきゃだめ…)

{亜希子さんを独りにしておけないよ…}

(ありがとう…大丈夫だから…少し休んだら、

病院に行くから…だから、お願い…

会社には、ちゃんと行って…)

亜希子さんは、私を抱きしめながら言いました。

カーテン越しの、朝の明かりが、

亜希子さんの白い身体を浮かび上がらせていました。

思い描いていた以上に、亜希子さんの乳房はふくよかで、

小指の先ほどの丸い乳首は、淡いピンク色をしていました。

{わかった…じゃあ帰るけど…仕事が終わったら、また来るからね…}

私は半ばすねたように言いました。

(うん…待ってる…)

私は、もう一度亜希子さんに口づけをして、起き上がりました。

(龍ちゃん…ありがとう…うれしかったわ…)

{俺……本当に…ずっと前から…亜希子さんが好きだったんだ…

(うん…)

なんて可愛い人なんだ…この人のためなら、俺…

何でもできる…そう思ったのです。

寮に帰って、少し寝たのですが、

目覚めた時には、すべてがパッ!と明るく思えたのです……が…

夕方が近づくにつれて、里治さんを裏切った事実が、

重くのしかかってきたのです。

それは亜希子さんをも襲い、贖罪の気持ちと、走り始めた、

狂おしいほどに求める肉欲とに苛まれることになったのです。





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