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夫婦慕情、その6、治らないのよ



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夫婦慕情、その6、治らないのよ、

前夜、亜希子さんから、(明日、先生に呼ばれているから、

お昼を終わらせてから行ってくるね)と聞いていました。

私は工場が終わったら、直ぐに店に来る事を告げました。

身仕度を調えて、店に行ったのですが、

亜希子さんはまだ病院から帰って来ていませんでした。

この日は比較的忙しく、表の接客とお金の管理、

皿洗いと、あっという間に八時を過ぎたのです。

亜希子さんが帰って来たのは九時少し前でした。

(龍ちゃん、ごめんね…あと私がやるから…)

ひと目で疲れているのがわかりました。

{いいから…亜希子さんは、二階で少し休みなよ…

終わらせてからお金は持って上がるからさ…}

そう言って、渋る亜希子さんを無理矢理二階へ上げました。

最後の客を帰したあと、お金を持って二階に上がると、

亜希子さんはお風呂に入ったらしく濡れた髪をタオルで拭いていました…。

パジャマにベージュ色のカーディガンを、肩からかけただけで、

私を見るなり、ぽつりと口を開きました。

(あの人ねえ…長生きできないんだって…)

そう言う目から、みるみる間に涙が溢れ出たのです。

店に帰って来た時から、亜希子さんに、明るさはありませんでした。

私は亜希子さんの涙に戸惑いながらも、

立ち尽くす亜希子さんの肩を引き寄せました。

それは自然の流れのように思えました。

亜希子さんは、私の胸で嗚咽を漏らしました。

しばらくは亜希子さんの嗚咽だけが部屋を満たしていました。

(ありがとう…)

ひとしきり泣いたあと、亜希子さんはそう言って、コタツに座りました。

私も対面に座り、亜希子さんの言葉を待ちました。

(あの人…肝硬変って病気なんだって…

輸血から感染することが多いみたい…)

{治らない病気なの?}

(かなり進んでるみたいで…)

そう言うと亜希子さんは、また両手で顔を隠して泣き出しました。

私は、里治さんが…

「店、続けられるかなあ」と言った言葉を思い出していました。

{里治さんは知ってるの?}

(うん…知ってる…先生が二人の前で言ったから…)

{そう………里治さんは…なんか言ってた?}

(何も………気が抜けたみたいだった…)

{治療法は?…先生何も言わなかったの?}

(安静にするのが一番だって………私も血液検査をされたの…)

{えッ!?亜希子さんも?…何で?…うつるの?}

(血液とか体液なんかでうつる事があるんだって…)

亜希子さんの口から"体液"という言葉を聞いた時、私は不謹慎ながら、

あらぬ妄想が頭をよぎりました。

私は、その妄想を振り払うように…{仕事…どうするの?}と聞いたのですが…

(そんなことまで考えられないわ…)

私は、聞いた事を後悔しました。

その夜、私は寮への帰路、改めて亜希子さん夫婦を支えようと思っていました。

亜希子さんへの感染がなかった事がわかったのは、それから、

一週間もしてからだったように記憶しています。

亜希子さんは、朝早くと仕事の終わる30分前に、毎日病院へ通いました。

私も会社が終わると直ぐに店に駆け付け、病院へ行く亜希子さんを送り出し、

店を終え亜希子さんの帰りを待ちました。

当然、会社では噂になりました。

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