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夫婦慕情、その3、精一杯の告白





夫婦慕情、その3、精一杯の告白

もうすぐ12月というある日のこと、白い息を吐きながら仲井さんが工場に入って来ました。

{臨時休業?}

昨夜も私はお二人には会っていました。今日、店を休むなんて聞いていません…?

昼休みと同時に、私はお店に急ぎました。

"心で好きと叫んでも、口では言えず…"

"からたち日記"を口ずさみながら作業服の襟を立てて急ぎました。

店の戸に、確かに臨時休業の張り紙がありました。

鍵がかかっていました…二人とも居ない?

戸を叩いてみたのですが、やはり居ない…なんで

仕事も終わり、もう一度行ってみたのですが、やはり居ません。

寮に帰り、風呂から出てもなぜか、しっくりしません…もう一度行ってみよう…

9時頃になって、店の前に立つと、二階のカーテンの隙間から明かりが見えました。

{里治さ~ん!亜希子さ~ん!…}

二階に向かって大声で叫びました。

しばらく待っていると、ガラス戸が開き、カーテンから顔だけを出した亜希子さんが…

(あッ…龍ちゃん…ちょっと待ってね…いま、下開けるから…)

そう言って、すぐに引っ込みました。

ガチャガチャ…戸が開いたのは、湯上がりの身体が完全に冷めた頃でした。

(ごめん、ごめん…ちょうどお風呂から出たとこだったのよ…)

{お風呂から?じゃあ、さっき顔を出した時は裸だったの?}

(あはッ…龍ちゃんもそんなこと言うの?…そうよ、は・だ・か…)

{はだかかァ…見たかったなあ}

(あはは…彼女に見せてもらいなさい!…)

亜希子さんは、パジャマ姿に赤い厚手のカーディガンを羽織っていました。

{なんで今日、臨時休業にしたの?}

(それがね…あッ龍ちゃん、ここ寒いから二階で話すわ…おいで…)

l亜希子さんは階段を先に上がって行ったのですが…

目の前で揺れ動く亜希子さんのお尻は私にはあまりにも酷な光景でした。

部屋には電気コタツが出ていました。

向かい合って据わると、亜希子さんはお茶を入れながら、

この日、一日の出来事を少しずつ話し始めました。

(今朝ね、時間になっても、あの人降りて来なかったのよ…

それで私、見に行ったら、まだ布団の中に居たのよ…)

{…………}

(はい…お茶…)

{寝てたの?}

(寝てたわけでもないみたいだけど…身体がダルくて起きられない…て言うの)

{前から時々言ってたよ…}

(うん…そうなんだけど…その都度、大丈夫って言ってたから…。

それで、多少の仕込みは私もできるから、寝かせてたのよ)

{入院したの?}

(うん…起きて来ないから行ってみたら、起きるって言ったけど、なんか辛そうでさあ…、

それで病院に連れて行ったのよ)

{病気はなに?}

(まだわからないの…先生は過労かなあって言ってたけど、

昔大病した事を言ったら、輸血したか?って聞くの…)

{輸血?…何の病気だったの?}

(胃潰瘍…それも穴が空いて危なかったの…その時、危なかったみたいで、輸血したって…)

{ふ~ん、先生はなんて?}

(考え込んでたけど…ちょっと色々検査してみようって)

{ふ~ん。検査結果が出るまで入院ってこと?}

(わかんないのよ…あの人が仲間の人に頼んで、厨房は何とかなったからお店は休まないけどね…)

でも給料は出すんでしょ?大丈夫なの?}

(何とかなるわよ…)

笑顔でそう言う亜希子さんでしたが、家賃だってあるはずだし、入院費用もかかるのです。

私は話しを聞きながら、ある決心をしていました。

店に通いつめていたので、使う野菜はわかっていました。

実家から送られてきた事にして、持って来ようと思っていたのです。

{亜希子さん、工場が終わったら、俺すぐに来るから、用があったら何でも言ってよね…}

真面目な顔で、亜希子さんの目をまっすぐに見て言いました。

(え?…だめよ…気持ちはうれしいけど、それはだめ…)

だめじゃあないよ…俺くるからね…里治さんが病気かも知れないのに、俺、絶対に来る}

あとに引けない気持ちでした。

「ははは…わかったから…でも本当に無理しないでよ…でも、龍ちゃんって意外と頑固ねぇ…」

「男だからね…里治さんが病気の時くらい、なんか手伝わせよ…」

(うん…ありがとう…本当のこと言うと、凄くうれしいの…)

亜希子さんの目がうるうるしてきたのがわかりました…。

気丈に振る舞っていても、心細かったのもわかりました。

(ああー…龍ちゃんがそんなこと言うから…)

亜希子さんの目から涙が一筋…流れました。

両手で顔を覆い隠し、しばらく沈黙が続きました…。

そして…(龍ちゃん、ほとんど毎日来てくれているのに…これ以上…ごめんね、心配かけて…)

顔を隠したまま、亜希子さんは言いました。

{なに言ってんの…俺だって…田舎から出てきて、

話す人もいない時に、あんなに二人が優しくしてくれたじゃない…お礼言うのは俺の方だよ…

里治さん、大したことなければいいね…}

(うん…ありがとう…来週には結果がわかると思うから…)

{そうだね…亜希子さん、元気出してよ…俺…亜希子さんが笑ってるの…好きなんだ…}

精一杯の告白のつもりでした…。




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