夫婦慕情、その4、龍一さんの彼女って年上
夫婦慕情、その4、龍一さんの彼女って年上
{そうだね…亜希子さん、元気出してよ…俺…
亜希子さんが笑ってるの…好きなんだ…}
精一杯の告白のつもりでした…。
(うん…ありがとう…)
翌日から私は仕事が終わると、寮の風呂に飛び込み、
着替えを済まして店に行く生活が始まりました。
道すがら、段ボールに野菜を買い込み、
亜希子さんのの店に運んだのです。
{お袋が、野菜をいっぱい送ってきてさあ…
これ…店で使えるよねえ…}
(え~!?…使えるけど、いいの?…
せっかくお母さんが送ってくれたのに…)
亜希子さんが喜んでくれるのが、何よりうれしかった…。
(今朝ね…病院に行ってきたの)
{どうだったの?}
(うん、点滴してたけど、元気そうだった…
龍ちゃんが心配してくれてるって話したら…うふッ…)
{なに?…何か言ってたの?里治さん?…}
(ううん…何でもない…お礼言ってくれって…)
{そう…でも元気そうでよかった…今度はいつ行くの?}
(毎日行くよ…朝か仕事が終わって…)
{夜行くのなら俺も一緒に行きたいなあ…}
(うん、いいよ…日曜日ならお店も夜ひまだから、日曜日にする?)
数日後の日曜日、
亜希子さんと里治さんのお見舞いに行くことになったのですが…
一日中ソワソワしていました…亜希子さんと出かける…
それだけで私は舞い上がっていました。
店の中で亜希子さんの仕事が終わるのを待っていました。
(島村さん…私、今からちょっと病院に行ってくるから、
早じまいしますね…片付けてあがって下さい…)
里治さんより年上の島村と言う職人さんは、
いかにも頑固そうな雰囲気の人でした。
片付けが終わり、職人さんを送り出してから、
私達は店を出ました。
(ねぇ龍ちゃん…お店の味のこと、
会社の人達なにか言ってない?)
{…味?…特に聞いてないよ…}
(そう…焼き飯なんか味薄くない?…しなそばの出汁も…
何かみんな薄い気がしてさあ)
亜希子さんの口調から、
島村という職人さんを気に入ってないようでした。
片道30分~40分の所にある病院だったと記憶していますが、
亜希子さんとの往復は、あっという間でした。
亜希子さんの幼い頃の話しや、まさか、
里兄ちゃんと呼んでいた里治さんの、お嫁さんになるなんて、
思ってもいなかった話しなど、面白可笑しく話してくれた記憶があります。
病院はシーンとしていて、
独特の雰囲気ですが、これは今も変わりませんねぇ。
静かに戸を開けて、ソッとカーテンの中を覗くと…
里治さんは眼鏡をかけて本を読んでいました。
{里治さん…}小さな声で呼び掛けると、
里治さんは眼を丸くしていました。
「龍ちゃん?…ナンだよ…びっくりしたよ…
一人?…うちのやつは?」
(ばあ~!)亜希子さんは、
私の後ろから突然顔を出して、おどけてみせました。
「居たのか…どうだった店の方は?」
寝ていてもやはり気になるのはお店の様でした。
(うん…まあまあよ…
日は30分ほど早じまいしたけどね)
「そうか…あの職人、どうだ?」
(真面目だけどね…
ちょっと、あなたに比べると、全体的に味が薄いのよ…)
「う~ン…そこそこいい店にいた奴らしいからなあ…
きつい仕事をしてる人には、ひと味濃くしないとなあ」
(うん…私もそう思うわ…明日話すわ…。
それより、龍ちゃんが毎日きて手伝ってくれてるのよ…)
手伝ってなんかいないよ…皿を洗ってるだけだよ}
「龍ちゃんありがとうなあ…亜希子から聞いてるよ…
皿洗うだけでも、ずいぶん助かるよ…
それに、田舎のお母さんが送ってくれた野菜なんかも…
本当にありがとうなあ」
{よしてよ里治さん…それより、どうなの身体の方は?}
(あと二三日したらわかるんでしょ?)
寝ている里治さんを上から見ているせいか、
顔色が悪く、心なしか痩せたように見えました。
「多分な…だいぶダルさは無くなってきたよ…
それより亜希子、なんか温かい飲み物でも買って来いよ…
この先に遅くまでやってる店があっただろ?」
いいから!…と言う私を振り切って、
亜希子さんは病室を出て行きました。
「なんかおかしいんだよなあ…」
里治さんが突然言い始めたのです。
{何が?…何かあったの?}
「医者がな…輸血の事を根掘り葉掘り聞くんだよ…
いつ頃やったのか…
とか、量はどのくらい入れたのか…とかさあ…」
{ふ~ん…何だろうねぇ…亜希子さんは知ってるの?}
「あいつは何にも知らないよ……店続けられるかなあ」
里治さんは遠くを見るように言うのです。
{変なこと言わないでよ…}
「俺達…従兄弟同士だろ…
俺もあいつも結婚するなんて思ってもいなくてさあ…」
{仲いいじゃないですか…}
「まあな…でも…二人で旅行だって行ったことないんだぜ…
ずっと…苦労させっぱなしだ…」
言葉が見つかりませんでした…。