奈落（再）、その21、男の毒を打ち込んでやったよ
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奈落（再）、その21、男の毒を打ち込んでやったよ
権藤から電話があったのは藤川さんのことを話してから３日後でした。
いつものようにスーパーの駐車場で拾われて、
喫茶店の２階で抱かれましたが、
その日はそれだけではなく、別の命令をされました。
「真弓、お前がこの前話してたあの奥さん、ほら２軒隣の奥さん、
明日この店に連れて来いよ」
「えっ、どうして？」
「いいから、黙って言うとおりしろ」
「…」
「明日、店休日なんだがお前が連れて来る時間には
開けとくからな」
「…」
胸騒ぎがしたのは当然です。
わざわざ藤川さんを呼び出すということは何か目的
があってのこと、ましてや藤川さんが権藤の素性を
知っていることを話した時に目つきが変わりましたので、
藤川さんにとっていいことは起こるはずもないこと
は予測できました。
ただ、権藤が何を企んでいるのか見当がつきませんでした。
私が困惑しているのを不愉快に思ったのか、
権藤が驚愕のことを口にしました。
「真弓、その奥さんを連れて来るのがイヤだったらお前の
旦那でもいいぞ」
「そんな…」
「旦那に挨拶しとこうか？奥さんといいお付き合い
させてもらってますってな」
「やめて…それだけは絶対…」
「じゃ、決まりだな。あとはマスターに任せとけ」
本当に藤川さんが遠回しに言ったとおり怖い人でした。
まさにヤクザの本領発揮でした。
そして、権藤から封筒に入った食事券を渡されました。
もちろんこの為だけに作った簡易なものでした。
主婦はタダ飯に弱いと権藤が考えた誘いの口実であり手口でした。
意外に藤川さんはあっさり平日のランチの誘いに乗り、
店休日であるはずの喫茶店に時間通りにいました。
店休日のプレートは私達が到着する直前にはずされ、
テーブルに座る頃にはまたドアのノブに吊るされました。
店には主婦らしきグループが二組いましたが、
２階の部屋で身体で借金返済している主婦だとあとから
聞かされました。
それに手配したのは吉見だとも聞かされ
ました。藤川さんの不信感を取り払う手の込んだ演出でした。
私達が前菜を食べ終わる頃には二組の主婦達は店を出ていきました。
その主婦達も本当のところは知らないし、
聞かせれてないのだと感じました。たぶん別の口実で食事に
招待されたのでしょう。
藤川さんは何の疑いも持たずことのほか
上機嫌で食が進んでいました。
異変が起きたのはデザートを食べている時でした。
私の話に返答が遅れるようになり、次第に返答しなくなりました。
目を見ると虚ろで焦点が定まっていませんでした。
「ご、ごめんなさい、ちょ、ちょっとお手洗いに…」
呂律も回らないほどになっていて、それでも振らつきながら、
自力で手洗いに立って行きました。
私が手を貸そうとした時、マスターが首を横に振り制止しながら、
携帯を取り出していました。
「権藤さん、落ちましたよ。はい、待ってます」
相手は当然権藤でした。近くに待機しているようでした。
私の最初の時と同じで食事か飲み物かに強い薬を盛ったのでしょう。
権藤は３分も立たずに店に入ってきました。
「女は？もう２階に上げたのか？」
入って来るなり獣の目付きになっていました。
「いえ、いま自力で洗面所に行きましたけど、
ぶっ倒れてるか、パンツ脱いだまま便座で眠ってる頃かと」
「そうか」
「少々、歳食ってますね、権藤さん」
「そうなんか？まじまじ見たことないからな。
オイ真弓、歳いくつなんや」
「えっ、４５か６かと…」
「そうなんや、でも美人の部類だろうマスター？」
「そうですね、若い頃の片鱗はそれなりにですね」
マスターとのやり取りの最中に子分が二人入ってきました。
すぐに、子分に指示し、変わり果てた藤川さんを狭い洗面所から
引きずり出しました。完全に気を失っていましたが、
衣服は乱れていませんでしたので、便座の上にはいなかったの
でしょう。
２階に運ぶ時は上半身と脚を持たれ、まるで死体を運ぶようでした。
すぐに私は子分の一人に送ってもらい、
その日は罪悪感の一日を過ごしながら、
藤川さんのその後が心配で堪りませんでした。
翌日は２軒隣が気になりましたが、共犯の私がノコノコ出向くわけもいかず、
それにも増して向こうから接触してくることに恐怖を感じていました。
それも午前中だけで、昼過ぎに権藤が携帯にかけてきました。
「昨日はご苦労だったな」
「あれから藤川さんに…？」
「何したってか？」
「ええ…」
「真弓、お前も子供じゃないんだから…わかんだろ」
「…」
「たっぷり、男の毒を打ち込んでやったよ」
「そんな…」
「もう心配すんな、二度とお前に減らず口叩かないよう、
説教してやったからな」
「私があんなこと話したばっかりに…」
「そう言うなよ、怪我の巧妙で珍しい女を経験できたぜ」
「えっ？」
「まぁ、今夜ゆっくり聞かせてやるよ、
今日旦那出張だろ？迎えに行くから５時にマンションの下に降りてろ」
そう言うと勝手に携帯は切れました。
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