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先生と妻、その18、過去の出来事、

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先生と妻、その18、過去の出来事、

私はその日の午後、役所近くの喫茶店で、彼を待っていました。

私が呼び出したのですが、同じ建物で働いていながら会うのは

何年ぶりかなのです。

いや、彼と私は互いに意識的に、

顔を合わせないようにしていたと言っていいでしょう。

喫茶店のドアが開く音がして、彼が入ってきました。

小さい目をまじまじと開いて私を見ています。

きっと、何事かと思っているのでしょう。

わたしは、彼の名前を呼びました。

「堀田さん、立ってないで、こちらへ・・・」

堀田は、まじまじと私を見ながらテーブルにやって来て、

座ってからも私から目をそらしませんでした。

私も黙って、彼の顔を見返していました。

業を煮やした掘田が、先に口を開きました。

「い、いったい、何のようなのです?わざわざ呼び出して。

ねえ、いったい・・・」

「もうそろそろ、こうして普通に会って話をしてもいいでしょう。

そう思っているんですよ、堀田さん」

堀田は、当時、真面目で責任感のある男でした。

今もそうでしょう。仕事ぶりを認められ出世している。

だから、こうして焦っているんでしょう。

私は、体格のいい堀田の、手をじっと見ました。


私の妻が妊娠し、私たち夫婦が幸せの真只中にいた頃でした。

私は、堀田が役所から数百万を横領しているのを知ったのです。

私と堀田は、同じ事業計画の中にいたのですが、

気づいたのは私だけでした。

何故こんな事を?私と年も近く、人当たりのいい彼が、どうして?

私が上に報告すれば、彼は一巻の終わりでした。

彼は仕事ができて、私も何度も助けてもらった。

いいやつだったのです。

私は彼と話しをしました。

いずれ明るみになると思っていたのかもしれません。

堀田は観念したように、私に話してくれました。

彼の弟が、数百万の借金を抱え、それに使ってしまったのだと、

堀田は告白しました。

堀田は私と似たような境遇でした。結婚し、

子供も生まれ、新築の家も購入していたのです。

彼自身もローンを背負っている。

 私は、堀田が横領した数百万を、

経理資料の山の中に埋没させました。

私が堀田をかばったのは、彼がいい人間で、

私と似た境遇にいるという事もありました。

しかしそれ以上に、黒い汚い闇の流通が渦巻いていて、

私は嫌気がさしていたのです。

 当時はバブルに世間がおごっていました。

私が属する組織もそうです。

特定の業者との黒い繋がり。馬鹿高い接待や宴会。

特に上の人間にいけばいくほど、職場の物、

金の私物化が蔓延していました。

堀田が横領した数百万に、誰も気づかないほど、麻痺していたのです。

堀田の数百万を細かく分散させ、

裏の流通の中に紛れ込ませることは簡単なことでした。

上の人間も、ろくに資料を見ずに、許可印を押しました。

 私は堀田の横領を隠ぺいし、私も犯罪者になったのです。

堀田は、私に頭を下げました。泣いて感謝の言葉を述べていました。

それから私を避けるようになったのでしょう。

ほとんど顔を合わすことなく、十年が経ちました。

なぜ私は、堀田のところに行き着いたのか?

私は堀田の手をじっと見ました。

十年前と同じだ。ハンカチで汗を拭いている堀田に聞きました。

 「堀田君、弟さんは、あの事を知ってるのかい?」

 「いや、知らない。知らないよ。何も言ってないからね」

 「奥さんや、お子さんは、元気?」

 「え・・・?ああ、元気だよ。娘はもうすぐ中学に・・・え?」

 私はなぜか涙ぐんでしまって、堀田を見ました。

あれから十年。私の知らない堀田の家族が成長している事に、

不思議な感傷がわいたのです。

「すまない・・・君との約束を破って一人だけ、

話しをした事がある・・・」

堀田が、私が見ていた手をグッと握りました。

「私の恩師なんだ。私は子供の頃から剣道をやっていて

、その剣道の師に、話したことがある

。いや、相談したんだ。私はあの事で悩んで苦しんでいた。

このままでいいのか?告白した方がいいんじゃないか?だから・・・

信頼できた、尊敬していた先生に、打ち明けてみたんだ・・・」

「峰垣先生に?」

「ああ、そうだ。素晴らしい先生だった・・・」

昔もそうだったが、なんと馬鹿正直な男でしょう。

私が掛けた鎌に、疑いもせず答えたのです。
 
「私の、ことは・・・」

堀田が一瞬言葉につまり、大きく手を振りました。

「言ってないさ、もちろん。助けてくれた人物がいるとは言ったけど。

君の名前は言ってない」

正直な男だ。目を泳がせている。言ったか言ってないか、

自分でも自信がないのだろう。私は確信しました。

堀田は、あの男に、私の名前を無意識に口走っている。

堀田の、十年前から変わらない、

竹刀だこの目立つ手のひらを見ながら、そう確信しました。

「いってらっしゃい、あなた」

「うん、行って来るよ」

木曜日の朝。今日はあの男が、家庭訪問と称して、

私の妻を貪りにやって来る日だ。

私は決意していました。

今日、けりをつける。あの男が私の家にたどり着く前に、襲撃する。

私に一度、あの男は襲撃され、

剣道の有段者らしく隙なく構えているに違いない。

男自身、そう言っていた。

しかしそれは、普段や妻を貪った後の話だ。

この家に来る道中は、隙だらけに違いない。私の妻の、

美しい肉体を思い浮かべながら、だらしなく歩いているに違いないのだ。

「ねえ、あなた。今日は、健太の学校に授業参観に行くの。

だから家を空けていますから」

「!?!」
 
 私は、崩れた襲撃プランに戸惑いながら家を出ました。
 
 









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