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先生と妻、その3、あの男に違いない。

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先生と妻、その3、あの男に違いない。

間違いない!あの男だ!

 私は思わず声になりそうなのを、こらえました。

その男は、頭ひとつ分は他の指導者よりも高く、座っていても、

大柄なのがわかりました。

色が黒く、白髪が多い頭髪は、覚えがある。

ただ、顔自体をはっきり認識していませんでしたが、

私には確信できました。

その男の顔には、数箇所、傷の後があったのです。

絆創膏を、額に一枚貼っている。

 私があの男を、襲ったときのものに違いない。

間違いない、あの男だ。

 男は、厳しい目つきで子供たちを見ています。

五十代の前半ぐらいだろうか。

ひょっとしたら六十近くて、若く見えるのかもしれない。

色黒の顔は血色が良く。

いかにも性欲が強そうに見えてしまうのが、

異様にムカムカしたのを覚えています。

剣道着の胸に、名前が書いてあり。目を凝らしました。

『峰垣』とあります。あの男は峰垣というのか。

 私はその時、あの男の襲撃に成功した事が、

いくら背後から襲ったといっても、

運が良かったのかもしれないと思っていました。

男は一目で秀でた身体能力が明らかでした。

剣道の有段者であることが明白でした。

正面から向かって勝てる相手ではないと、

本能的に察知できました。

 運が良かった・・・その運の理由が、

私をメラメラと燃えさしました。

 あの男は、妻との性交で、体力を消耗させていたのだ。

私の家で、家庭訪問に来ていながら、

自分の教え子の母親である私の妻を、激しく抱いていた。

私はをれを目撃した。

それ程のセックスだった。私の妻を攻めたてたことによって、

素人の私にやすやすと襲われるほど体力を消耗していたのだ。

私は妻を捜しました。すぐに見つかりました。

まろやかな妻の体のラインは、母親たちの集団の中で目立って

浮き立っていたから。

ぴっちりした黒のノースリーブで、豊満な胸が突き出ている。

ウエストは細く、その為、余計にプリプリのお尻が際立っている。

パンティ-ラインが見えそうだ。

それに、髪をかき上げるたびに、ノースリーブの腋から下着が

見えてしまうじゃないか。くそう、たまらない。

 妻は前方を見ていて、それは、息子の健太を見ているのか。

それとも、あの男をじっと見ているようにも見えました。

たまらなくムカムカとしていました。その時の私は。

メーン!ドーッ!

 甲高い声が響く中、妻と息子の健太が向き合っていました。

二人とも笑顔でした。健太は、昇級審査を終えた後で、

うまくいったのでしょう、

満面の笑顔を母親に向けていました。

そこに、あの男がやってきたのです。

 男は健太の頭を撫でて、健太もうれしそうな顔を

男に向けていました。

妻は、男に礼を言うようにお辞儀をしています。背

の高いその男は、小柄な妻を見下ろしています。

私はメラメラと燃えました。妻がお辞儀することによって、

豊満な胸の谷間が晒されているに間違いないのです。

 男は、妻と健太の元を離れ、

他の親子にも話をしながら歩いています。

私は燃える目で男を追いました。

そして、ハッとしました。男が、白い紙切れを床に落としたのです。

それとも、たまたま袴のポケットから出て落ちたのか

分かりませんが、誰も気づくことではありません。

私のように男を目で追いつづけていなければ。

ただ、一人いたのです。それに気づいていたのが。私の妻だ。

 嘘だろうと、妻の行動に鼓動が速まりました。

妻は、何気なく男のたどった跡を行き、

そして、ごくさりげなく屈むと、紙切れを拾ったのです。

誰も、そんな妻の行動を気にするものなどいません。

私以外。いや、あの男と私以外。妻は、チラッと、

その二つ折りの紙切れを開いて見ると、バッグの中にしまいました。

 私は男を捜しました。男の姿が見当たりません。

その時、健太は剣道仲間の中に入っていました。

そして妻が、その場を離れだしたのです。

 体育館を出て行く妻。息子の勇姿を見て、帰る親御さん。

誰が見てもそう見えるでしょう。

いや本当にそうなのかもしれない。私は、そう願いながら、

体育館を出て妻の姿を追いました。

そして血の気が引いていったのを覚えています。

 妻は、帰り道の校門への方角とは逆の、

体育館の裏手へと歩いていくのです。

体育館の裏は、まったく人気がなく、体育館の中から響く歓声が

聞こえるだけでした。そこを歩く妻。

 そしてなんと、妻は、体育館の正面の大きな入り口とは

正反対の端にある、古びた鉄のドアを開けると、

そこからまた、体育館に入りなおしたのです。

私は走って行き、ドアノブを回してみました。

カギが、かけられていました。

 私は、正面の入り口から体育館に入りなおしました。

妻が入ったドアの位置を考えると、

あの、ステージのどん帳の裏じゃないか!?

いったい、何が目的で妻は?

 私は、昇給審査で弾ける子供や歓声を上げる親たちの横を、

静かに進み、トイレでも探す風な風体で

ステージの階段を上り、どん帳の裏へ入りました。

真っ暗で、手探りしながら進み、奥へ奥へそっと進み、

聞こえてきたのです。妻の声が。それは、最も端の奥の、

テーブルやパイプ椅子やらが積み重なっている奥から、

漏れてきました。
 
 真っ暗な空間、積み重なる物の隙間。

私はのぞくことができました。

天井の小窓から入ってくるかすかな光が、

照らしていました。妻と、あの男をっ!



 
 
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