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私の知らない妻、65、私の悪い予感は的中していたのです

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私の知らない妻、65、私の悪い予感は的中していたのです

考えても考えても悪いシュミレーションしかイメージに

湧き上がって来ない事に疲れた私は諦めて、開き直ってしまいました。

何しろ今はどう転んでも、病室から動けないのです。

携帯電話すら自宅に置いたままでした。

為るようにしか為らない‥

日曜日の昼下がりの病院のベッドで、私はただ時が経つのを‥

妻悠莉子が何事を発見する事無く病院に戻って来る事を待っていたのです。

1時間‥2時間‥ ‥

妻悠莉子は戻って来ませんでした。

タクシーならば僅か10分程の距離なのです。

まさかやはり!?‥ノートパソコンの中に入れたままのDVDを‥。

私は病院のベッドの上で気持ちばかりが焦り、

事故の痛みと苛立ち、不安が入り混じる中で、

時間が経つのが異様なまでに遅く感じられていました。

時折廊下から響く、床を叩くスリッパの音が

聞こえる度にキュッと締め付けられる心臓。

遅い‥ いくら何でも遅過ぎる‥

やはり見つかってしまったのか?‥

そして3時間が経とうとした時に廊下から聞こえた、

重々しいスリッパの音。

その足音は病室の前で止まったままてました。

《悠莉子か?‥》

しかし1分‥2分‥その立ち止まったように

聞こえた足音は途絶えたままでした。

【パ‥タ‥ッ‥パ‥タ‥キュ‥ッ‥キュ‥ッ‥】

ゆっくり小さな歩幅で歩く音が聞こえ

【カチャッ‥‥ 】

不意に病院の扉が開かれ、

そこには明らかに顔色の悪い妻悠莉子の姿‥

そうです‥私の悪い予感は的中していたのです。

【カチャッ‥‥ 】

不意に病室の扉が開かれ、

そこには明らかに顔色の悪い妻悠莉子の姿が‥

そうです‥私の悪い予感は的中していたのです。

青ざめた表情のままで、ぎこちなく病室に入って来た妻悠莉子。

悠莉子は俯き気味に顔を伏せ、

決して私とは目を合わせようとはしないでいました。

私が横たわるベッドとは微妙な距離を保ったままで立ち尽くす妻悠莉子。

私は私で何を言うべきなのか咄嗟に言葉が出てこずに、

ただ視線だけが悠莉子を凝視しているばかりでした。

傍目から見ても明らかに違和感を感じるであろう二人‥ 。

そしてこの無機質な病室を包む暗澹とした空気‥。

沈黙は実際の所は1.2分であったのかも知れません。

しかしその時間は私と悠莉子には重苦しく長い長い物に

感じられました。

張り詰め、何か手順を一つでも間違えれば何もかも粉々に

なってしまうのでは?と思える程の空気。

それは私と妻悠莉子が、

互いに洗面器に深く顔を浸けたままで我慢比べをしているようでした。

その状況に我慢出来ずに最初に顔を上げたのは私でした。

顔を伏せたままで立ち尽くす妻悠莉子に

『なぁ‥こっちへ来いよ‥ 』と声をかけ、左手で手招きしました。

私の言葉に、ビクッ‥と体をすくめるようにして反応する妻悠莉子。

私はその姿を見て、無意識に眉間に縦皺を寄せ、

首筋に走る鈍痛を耐えるように大きく息を吸い込み

『いいから‥ いいから来いよ‥ 』と再び手招きをしました。

両手に私の入院に必要な着替え等の荷物を持ち、

俯いたまま擦り足で近寄って来る妻悠莉子。

私は四人部屋の病室の他の入院患者さんに迷惑が掛かっては‥と、

悠莉子に手配せしてカーテンを閉めさせました。

私が横になるベッドの左隅で、

私から距離を置いて青ざめた表情のまま立ち尽くす妻悠莉子。

その左脚は悠莉子の意思とは関係なく、

膝から下がカタカタと小刻みに震えていました。

何を言えば良いのだろうか?

何を口にすれば‥。

私には適当な言葉が見つかりませんでした。




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