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妻の青春、その23、妻が家出しちゃうのか

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妻の青春、その23、妻が家出しちゃうのか

川島君は私の話を真剣な表情で聞いていました。

「そうですか……でも……一言だけ言わせてもらっていいですか?」

「うん、なんだい?」

「僕としてはできれば言って欲しくないですけど、

ご夫婦のことでもありますし、

瀬戸さんがそうされるのならやむを得ないと思います。ただ…

…洋子さんに本当のことを言われることで、リスクを背負うのは

瀬戸さんの方ではないんですか?

こういう言い方はあまりしたくないですけど、

僕はもし洋子さんに恨まれるようなことがあっても、

所詮顧客を一人失うだけですから……でも瀬戸さんの場合は……」

自分のことより私の立場を思いやってくれる川島君の言葉に

感心しながら私は言いました。

「ありがとう…でも、それは川島君が心配しなくてもいいよ。

さすがにDVDのことまでは言わないつもりだし、

川島君のことを悪く言うつもりはないから。

すべては俺が仕掛けたことだからね」

川島君は私の顔をじっと見つめながら少し間をおいて言いました。

「…わかりました」

私は川島君と別れて、5時過ぎに帰宅しました。

「ただいま…」

家の中に入ると、家内は買い物をして帰宅したばかりなのか、

冷蔵庫に食材を入れているところでした。

「あらっ、お帰りなさい。早かったのね…」

「うん、まあ…」

私はどのタイミングで切り出すか、まだ自分の中で決めかねていたため、

生返事をしてしまいました。

いつ言おうか…いっそのこと今言ってしまおうか、

迷いながら居間のソファに座り新聞を広げていた時に

家内が近寄ってきました。

「はいっ、これ川島君から…」

家内が差し出したのは川島君が持ってきた新車のパンフレットが

入った紙袋でした。

「ああっ、そうだったな」

「後のこと、きちんとしてあげてね。

日曜日にわざわざ来てもらったのに…」

私は今だと思いました。

「洋子、ちょっとここに座れよ」

キッチンの方に戻りかけていた家内は振り返って戻ってくると、

向かいのソファに腰掛けながら言いました。

「どうしたの?改まって…」

私は心臓がバクバクして緊張しているのがわかりましたが

平静を装って言いました。

「さっきまで…川島君に会っていたんだ」

「そうなの?謝っておいてくれたのね」

「うん、謝ったよ。仕事に行く振りをして家を出て、

川島君とお前をこの家に二人きりにさせたことを…」

「えっ????…」

家内は怪訝そうな顔をして私を見つめました。

私が何を言っているのか理解できないようでした。

「あなた何言っているの…今日は仕事じゃなかったの?」

「仕事じゃないよ。これは俺の一人芝居なんだ。

お前と川島君をこの家に二人きりにさせたかったんだ」

「どうして?あなたの言っていることがわからないわ」

訳のわからないことを言われ困惑している家内をよそに、

私はまくし立てるように言いました

「俺は全部知っているんだ。川島君のマンションに食事を

作りに行ってキスしたこと、

川島君がこの家に泊まった翌日の明方に再び抱き合って

キスしたこと、そして

……川島君のマンションでセックスしたこと……全部知っているし、

すべては俺が仕掛けたことなんだ。俺が川島君に頼んだことなんだ」

「そっ……そんな……」

家内は大きく目を見開いて、凍りついたように動かなくなりました。

「……だから……二人が久しぶりに顔を合わして、

家の中で二人きりになった時、

どうなるのか試してみたかった…」

凍りついたように動かなかった家内でしたが、

私に表情を見られたくないのか、下を向いてしまいました。

泣いているのか、少し肩が震えているように見えました。

私はどう話しかけたらいいのかわからず、しばらく黙っていました。

会話のない沈黙の時間が流れていきました。エアコンをつけ

ていたため窓を締め切った居間の中は物音一つ

しない空間となっていました。

どのぐらい経ったでしょうか、家内がゆっくりと顔を上げました。

目元が潤んでいるように見えましたが、涙がこぼれるほどではありません。

家内の視線は私ではなく、テーブルの一点を見つめていました。

「すまなかったな……今まで黙っていて……」

沈黙の息苦しさに耐えかねて、私は家内に対して謝罪の

言葉を口にしました。しかし、

家内の耳に入っているのか、返事もなく視線も動きません。

私は再び言葉を失ってしまいました。

そして窓の外が薄暗くなりかけた時、ようやく家内が口を開きました。

「…やっぱり……そうよね……」

「えっ?」

私は家内が何を言っているのか、わかりませんでした。

「やっぱり………遊びだったのよね………川島君は…」

「遊びって?…」

家内は視線を動かさず、テーブルを見つめたまま言いました。

「…あなたに言われて……その気もないのに……そうよね、

そうじゃないと変だし……」

家内は川島君に遊ばれていただけと思ったのでしょうか、

私に頼まれてその気もないのに川島君は家内を抱いたと

思ったのでしょうか…

「その気になっちゃった…私がバカだった……そういうことかしら……」

私は慌てて言いました。

「そ、そんなことはないさ。確かに川島君に頼んだのは事実だけと、

川島君はお前のことを本当に……」

私の話しが終わらないうちに家内は立ち上がりました。

「さぁーて、夕飯作らなきゃね、

もうすぐ弘毅がお腹すかして帰って来るわ」

顔に明らかな作り笑いを浮かべながら、

家内はキッチンへ行ってしまいました。

失敗だったか、やっぱり一生内緒にしておくべきだったのかな…

…私は本当のことを言ってしまったことを後悔しました。

家内の本当のことを話してから2日後ぐらいに川島君から電話があり、

私は一部始終を話しました。

その気もない川島君に抱かれたと思われることは川島君に

とっても心外だったようで、

もう一度出会って話しをしたいと言ってきましたが私は断りました。

時が解決してくれるのではという甘い考えがあったのです。

その後も家内とは必要最低限の会話はありましたが、

なんとなくぎこちない日々が続きました。

一番辛かったのは家内と視線が合うことがなくなったことでしょうか。

私と話をする時も視線を合わさず話をするので、

会話をしていても心が通い合っていないというのが明らかでした。

これから自分たちはどうなるのか…

このまま殺伐とした仮面夫婦を続けるしかないのか…

身から出た錆びとはいえ、私は今後のことを考えると憂鬱な日々でした。

そして状況が急転したのは、家内に本当のことを

話してから2週間ぐらい経った日曜日の夜でした。

弘毅が2階の部屋に入ってしまってから、家内が話しかけてきたのです。

「あなた…お話があるの」

私は一瞬ドキッとしました。もしや…離婚か…まさか…しかし…

もしそうならそれもしょうがない…弘毅はどうするんだ…

一瞬の間にさまざまなことが頭を駆け巡りました。

私と家内は居間のソファに向き合って座りました。

そして、家内は相変わらず私の方は見ないで、やや下を向いたまま口を

開きました。

「今度の水曜日と木曜日……外出させてほしいの」


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