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寝取られの果てに、その3、妄想が現実に







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寝取られの果てに、その3、妄想が現実に

手順を言うと、納品書を受け取ったあと、妻が同行して、

倉庫の鍵を開けます。

値引き物の在庫として抱える商品は、倉庫の奥へ、

急き物の商品は、入り口付近の早だしの棚へ…

商品を台車で運び入れると、妻が確認して、受領のサインをします…

それで納品は完了します…。

DVD鑑賞作戦以降、妻と立花が、顔を合わせるのは、

明日が初めてなのです。

日常生活の流れの中で、妻が自然と立花を意識せざるを

得ないような仕掛けを、私は幾重にも張り巡らせていました。

妻の微細な心の動きを観察し、浮気をさせるように仕向ける、

誘導の作業は、じつに愉しいものでした…

一度、昼食の最中だったか、妻のほうから、立花について話し

始めたことがあります…テレビではマラソン・レースが

中継されていました。

その時、妻が唐突に、ハードルの某選手に立花が

似ていると言い始めたのです…

マラソン、ハードル選手、立花の順の連想なのか?

すでに、立花が妻の心に住みついていて、立花、マラソン、

ハードル選手の順の連想なのか…

いずれにしろ、私はペニスを激しく勃起させたまま食事を

しなければなりませんでした。

明くる日…。

「午前中に納品があるから…」

私は妻に告げました。

「どこから?」

それには答えないで、

「急き物じゃないから、奥のクロス棚の横に

スペースがあっただろ…」

「わかったわ…クロス棚の横ね…」

「帰りは夕方になる…健太は、剣道の試合だったな…」

「ええ、道場からバスが出るそうよ…」

積年の妄想が、現実になろうとしていました。

この先、どう展開するのか、神のみぞ知るです…

「じゃあ、行ってくるよ…」

腕時計を見ると、九時半でした…

妻が珍しく、玄関まで送り出してくれようとします…

「ねぇ、納品ってどこから?」

妻が、私に鞄を手渡します…

「ああ…立花君だよ…」

一瞬、妻はたじろぎ、私から視線をそらしました…。

「そうなの…わかったわ…クロス棚の横ね」

妻の狼狽には気づかない振りをして、

「〇〇タウンの受注が一区切りついたら、

久しぶりに休暇をとって、温泉にでも行くか…」

「そうね…貴方、今年は働き詰めだったから…」

クロス棚の横のスペースと、そこへ続く通路を一面に

見渡せる高い位置に、私は段ボール箱を置いています…

ビデオ・カメラのタイマーは、余裕を持たせて、

十時にセットしてありました。

得意先のタイル屋で、小一時間ほどを潰した後、

私は自宅からそう遠くない公園の裏通りの路肩に車を停めました。

ここは、仕事に行き詰まったり、

先代であった亡父といさかったりしたときに、

よく来る場所でもありました。

しかし、今日は違います…愛する妻が、私を裏切って、

不貞を犯す日になるかもしれないのです。

たとえ、その経緯がどうであろうと…

私は座席のシートを倒しました。

言葉にできないような焦燥感が、下腹から沸き上がってきます…

むろんペニスは、自宅を出る前から、半勃起の状態が

続いています。

手で、少しでも触れようものなら、自慰をしたい気持ちを

抑えられなくなるに決まっています。

今、射精してしまえば、私は激しい罪悪感に

襲われ、すべてを後悔してしまうに違いありません…

私は目を閉じて、計画に不備はなかったかを、思い返しました。

妻はこう思っている…自分と雰囲気の似た女のDVDを観ながら、

立花さんは独り身の淋しさをまぎらわしている…

それどころか立花さんは、女の雰囲気が私に似ているだけでなく、

偶然にも、男のほうのペニスも、自分のにそっくりなんだと、

感激した口振りで言っていたらしい…

男同士って嫌ね…平気でそんな会話をするなんて…

でも、立花さん、どうしてそんなこと言ったのかしら…

きっと、主人、からかわれているんだわ…

たまたま、女の人が私に似てたから、冗談で言ったのよ…冗談?

それなら、どうして、あのDVD一枚だけを返してくれなんて

言うのかしら…あのDVDに執着している証拠じゃないの?

あぁ、分からない…今度、どんな顔をして立花さんに

会えばいいんでしょ…でも、大丈夫よ、私があのDVDを観たこと、

立花さんは知らないんですもの…

知らん顔して、応対していればいいだけの話よ…

じっくりと観察して、彼の本心を探るチャンスかも…

たぶん、妻の心理状態は、そんなところだったのでしょう…

洗脳は成功を収めたようです…

DVDの女が妻に似ているなどと、立花は、ひとことも

言ってはいなかったのですから…

一方、立花はどう思っているのか?

私は、そちらのほうが心配でした…

さんざんに持て遊んだ挙句、自社の女事務員を自殺未遂に

追い込んだという噂は、単に噂だけではなかったようです…

その事務員なら、私も知っていました。五十半ばの、仕事一途で、

堅物そうな亭主持ちの女です…度の強い眼鏡をした風采の

上がらない女が、どのような経緯で、亭主を忘れ、子を忘れ、

その果てに世を儚んだのかは、想像に難くありません…

立花との数日の遣り取りの中で、妻が彼の標的になったという確信が、

私にはありました…ただ、彼がどのような手段で

妻を蹂躙するのかは、正直、見当もつきませんでした。

曲がりなりにも、先代からの懇意の得意先の女房です。

自社の従業員を毒牙に掛けるような訳にもいかないでしょう…

いきなりレイ プまがいの行為に及ぶとも思えませんでした。

私の今日の希望は、倉庫内でのキスです…

一旦、振り切って逃げようとする妻を強引に抱き寄せ、

否応なしに、その唇を奪う立花…抗いをみせる妻…

三秒、四秒…押し返そうとして胸にあてがっていた妻の手が、

ふいにだらんと垂れ下がります…

五秒、六秒…つま先立ちになり、垂れ下がっていた妻の両の手が、

ゆっくりと持ち上がり、行き場を探すように、

立花の肩の上に置かれます。

七秒、八秒…唇が外され、大きく息をする妻…

立花が耳元で何かを囁きます…その時、いやいやをするように

妻の頭が左右に揺れます…耳元の唇が、そのまま、妻の首筋を

這い始めます…再び、何かを囁く立花…我に返ったように、

体を翻し、倉庫の入り口へと駆け出す妻…。

私はこのような場面を想像していました。

今日のところは、それでいい…正直に言うと、

それ以上のことを考えるのが恐ろしかったのです…

今にして思えば、私の考えが甘かったとしか言いようがありません…

事実は、私の予想を遥かに越えたものでした。




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